【序文】
2012年から3年にわたって書きためた作品群のなかから、36篇をすくい上げ、あれこれノミを入れながら、手のひらサイズの更地の箱庭におさめてみました。
「現代詩」と聞くと、なんだか小むずかしそうな、読み手をないがしろにした、しかめっ面の石膏像が思い浮かぶかもしれませんが、思いのほかそうでもありません。
平易な言葉で、ねじくれた物語の深みへいざなう、あるいは若草色の風が吹き渡る、なつかしい風景にたどり着かせてくれる書き手が、少なからずいらっしゃいます。
彼らが時間をかけて作り上げてきた登山道は、ときに思考の急斜面や、飛躍の谷をはさむため、はるか昔から、それほど人通りが多くありません。迷いかけた旅人を道案内する、ケルンの石が置かれていることもまれです。
特定の師もおらず、あこがれの対象もあえて持たないようにしていますが、そのような姿勢・たたずまいは、やはり一人の書き手として、強く惹きつけられます。波打ちぎわに一人立ち、じっと遠くの水平線を見つめる、背筋の伸びた孤高の後ろ姿を思い起こさせます。
私自身も、そのような顔の見えない詩人の一人として生き、やがてまぶたを鎮めて、歩いてきた道を草木にゆずりたいと考えています。
【詩集より、2篇】
「九月十九日」 (初出『現代詩手帖』2014年9月号)
電子版から「一軍」を選抜し、それとは別に、未収録の作品をおさめる予定。
発売は、11月下旬。どうぞご期待下さい。